僕はタイトーでゲーセンを救おうとしていました

 

1/7 はじめに

これまでVGFを見て下さっている方であれば、いかに僕がゲーセン嫌いであるかが、お分かり頂けるかと思われます。

これでも相当抑えているつもりですが、いつ抗議の書き込みが来るか、覚悟をしつつもヒヤヒヤしながら書いております。

しかし、そんな僕にも、いちゲーセンファンとして純粋にゲーセンを救いたい、と願っていた時期があったのです。

時は2012年、それを形にした企画として実際にタイトーに提出した構想の全貌を、今ここに明かします。

本エッセイを読んだ貴方が、これまで以上にゲーセンで奮発したり、逆に現状を変えたりする切っ掛けとして頂ける事を望みます。

 

目次

最低限ここだけでも読んで頂きたい項目には「★」、出来れば合わせて読んで頂きたい項目には「☆」が付いています。

それらを読んでもなお飽き足らないのであれば、末尾が空欄の項目も是非読んで下さい。

1.はじめに

本エッセイの、まえがきです。

2.次世代汎用筐体「V-BOX」 ★

タイトーの二次選考の際、実際に提出した企画書の概要を解説します。

3.価値観のズレを痛感した二次選考 ★

タイトーの二次選考の結果などを受けて痛感した、ビデオゲームを巡る価値観のズレを語ります。

4.もし実際にV-BOXが発売されたら? ☆

晴れてV-BOXが全国のゲーセンに出荷されたと仮定して、その課題を考察します。

5.まとめ ★

これまでの解説を、まとめます。

6.こちらもあわせてどうぞ

本ページと何かしらの関連性や共通点を持つコンテンツを3つ紹介します。あと掲示板もどうぞ。

7.最後に

本ページについての、あとがきです。

 

2/7 次世代汎用筐体「V-BOX」 ★

ゲームクリエイターになりたい!との思いで大学に入った僕は、早々とゲーム作りのセンスや技術のなさを痛感していました。

そうしてゲームクリエイターの道を諦め、就活のエントリー先をIT企業に絞りつつも、唯一エントリーしたゲーム会社。

それがタイトーです。

何故なら、ネシカクロスライブやDBACを出す等、抜きん出てゲーセンや少数のファンを大事にしている、と感じたためです。

それに加えて、ちょいKARAは未来のゲーセンを形作る救世主だ、と僕には感じられたのです。

当時、まだまだゲーセンに通い詰めてはいた僕ですが、ゲーセン特有の喧騒や、ビデオゲームの冷遇に疑問を抱いていました。

映画館やカラオケ施設と比べて、どうして音響に無頓着なんだろう。全然音が聴こえなくて没入できないじゃないか。

特に、ビデオゲームは数が少ないだけでなく、輪を掛けて音が小さい。売れないとか言ってるけど、そもそも売る気があるのか、と。

そこに、ちょいKARAです。ちょいKARAとネシカを通じて、未来のゲーセン像が、ありありと浮かび上がったのです。

ちょいKARA並の遮音性を持つ新型の汎用筐体「V-BOX」(仮)に、無料で様々なビデオゲームを続々配信と謳ったネシカ。

もし、この2つが組み合わされば、もっと多くの人、ゲーセンに幻滅していた人がゲーセンに戻って来るはず。

かつて駄菓子屋などにもゲーム機が置かれていたように、ゲーセンの枠を飛び越えて、ビデオゲームが広がるはず。

それだけじゃない。普及すれば店内の喧騒が軽減され、既存の他のゲームの音響も良くなる。興味ない人にとってもプラスだ。

店にとっても、店内の喧騒を減らした分、アピールしたいゲームの音を目立たせられるのであれば、オイシイ話に違いない。

それが実現したら良いなあ。実現させてくれそうなメーカーといえば、タイトー以外に考えられないなあ。

そうだ、俺がタイトーに入って、俺が実現させるんだ。俺が作るんだ!!新型の汎用筐体を!!

 

その燃えたぎる想いをエントリーシートにぶつけた結果、みごと一次選考を通過する事に成功しました。

たかが一次選考といえど、その一次選考に落ちる方が大勢いたであろう点を考えると、今でも誇りに思っています。

続いて、因縁の二次選考は、タイトー本社でのグループディスカッションでした。

記憶が定かではないのですが、確かこの段階で、どの部署を受けるかを選んだような気がします。

店舗運営など色々ある中から僕が選んだのは、アーケードゲーム機器のプランナーです。

その際、宿題として、アーケードゲーム機器の新作の1ページ企画書の提出を求められ、迷わず「V-BOX」をまとめました。

当初は手書きで旧サイトのようなレイアウトでしたが、ゼミの先生に相談した結果、先輩のテンプレで完成させる事となりました。

曰く、1ページ企画書ではインパクトと見栄えが大事だし、そういう指導も受けていると面接でアピール出来る、だそうです。

以下の画像が、実際にタイトーに提出した企画書を一部加工したものです。

↓ちなみにV-BOXのVは、言うまでもなくVEWLIXから拝借した。
 

企画書に書き切れませんでしたが、ネシカを内蔵し、もう1枚別のゲームを組み込める設計も考えていました。

いま見直してみると、「画面の向き」という点が浮いている気がしますが、恐らく前述の設計を示唆していたのでしょう。

画面の向きを変えられないと、ネシカの縦シューを余白だらけの小さな画面でプレイするしかなく、不便なのです。

販売価格はネシカ込で約90万円を見込んでいました。ちょいKARAやDBACが、大体それくらいの価格であったためです。

なお、ビュウリックスが約50万円で、ネシカが約30万円との事なので、トータルでは大差ない価格設定です。

なら、もう少し奮発してV-BOXを買った方がお得だよね、といった販売戦略も考えていました。

余談ですが、これを兄や就活サポートの方に見せた際、満場一致で「戦場の絆みたいだな」との感想を頂きました。

また兄からは、前述の販売価格や、ビデオゲーム自体この豪華な筐体に見合っているのか、等と核心を突く指摘も頂きました。

その上で、コンセプト自体は褒められたため、自信を持ってタイトーに乗り込みました。

ただ、このとき僕が致命的なミスを犯しているとは、まだ知る由もなかったのです。

 

3/7 価値観のズレを痛感した二次選考 ★

正直、ディスカッション前に各々が自己紹介をする段階で、嫌な予感がしていました。

みな音ゲーやRPGが好きな方々ばかりで、僕のようにビデオゲームに拘る人など居ませんでした。

しかも、タイトーの人事の方を前に、彼らは平気で「コナミ」の音ゲーの話ばかり。あれ、僕らはコナミに来たんだっけ?

それはさておき、前述の通り、事前にタイトーでディスカッション、企画書を用意と聞いていました。

なので僕は想像しました。各々の企画書を持ち寄って、最高のアミューズメントを作るためのディスカッションをするのだ、と。

そこで、僕は前述の喧騒やビデオゲームの冷遇を取り上げた上で、V-BOXが解決の糸口となる、と切り出すつもりでした。

ところが、ディスカッションの題目は、「お客さんを呼び込むゲーム作り」だったのです。

僕は顔面蒼白でした。V-BOXは、あくまでビデオゲームの魅力を引き出すための隠し味。それ自体がメインには成り得ません。

それに、よく考えたら、僕が想像していたのは店舗運営タイプです。

アーケードゲーム機器のプランナーとは、ゲームを企画する仕事なので、ゲームの内容で勝負しなければならないのでした。

その間も、無情にも周りは積極的にRPG的な継続性だの、ギャラリーも一緒になって楽しめる一体感だの、と熱く意見を述べます。

完全に出遅れてしまった僕は、簡単操作で座って出来るゲーム、といった意見しか述べる事が出来なかったのです。

僕がV-BOXに込めてきた想いを、全く持ってディスカッションに活かす事が出来なかったのです。

しかも、座る事に関しても総スカンを喰らいました。それだけで重苦しい、立って遊んでナンボだよね、と散々な言われようでした。

↓お構いなしに、堂々と主張すれば受かったかも知れない…(「写真素材 足成」より引用)。
 

挙句、ディスカッションしたうちの数名と近場のタイステに寄った事で、決定的な価値観のズレを認識したのです。

「ああ、この五月蠅さ、この喧騒が、たまんないんだよな〜。え、ビデオゲーム?あっち系になんか行きたくないよねww」

「やっぱりビデオゲームみたいなダサいのじゃ、お客さん食いつかないよねw引いちゃうよねw音ゲー最高www」

概ね、これに近い事を言われた僕は、はらわたが煮えくり返りそうになるのを必死に堪えて、彼らと別れました。

そうやってビデオゲームをバカにして、似たような大型筐体ゲームばかり作り続けた結果、今どうなっていると思っているのでしょう。

うるさくて、どこのゲーセンでも似たようなゲームばかりで遊ぶゲームがない、とばかりに客は、そっぽを向いて行っています。

ゲーセンだって新作ラインナップで差別化が出来ず、甚大な運用コストに苦しめられ、バタバタ潰れています。

まあ元はと言えば、ゲーセンがビデオゲームを冷遇したから出なくなった点を考えると、自業自得という他ないのですが。

確かにビデオゲームは回転率も人付きも悪いですが、大型より安く多く置けて色々なゲームに対応して、確かな需要があります。

こいつらもゲーセンも、ビデオゲームを笑う者はビデオゲームに泣く、という事が、どうして分からないんだッ!!

等と、ぼやいていても仕方がありません。タイトーに落ちた敗者に、口はないのですから。

かくして、V-BOXと、それによる未来のゲーセン像は闇に葬られ、よりゲーセンは深い深い泥沼へハマり込む事となるのです。

↓立って遊ぶゲームばかりじゃ疲れるだろうに(「写真素材 足成」より引用)。
 

 

4/7 もし実際にV-BOXが発売されたら? ☆

ここからは、もし僕が晴れてタイトーに入社し、V-BOXを全国のゲーセンに出荷する事となったら、という妄想を語ります。

前々項では良い方向にばかり考えていましたが、2種類の理由により正直かなり厳しいんじゃないかな、と今になって思います。

第1の理由は、無理のある販売価格です。

ネシカ込とはいえ汎用筐体が約90万円という価格設定は、いくら何でもゲーセン側としては高すぎます。

ほぼ同価格帯のDBACですら300台ほどしか売れなかったのです。V-BOXが300台も売れるとは、とても考えられません。

逆に、作る側としては安すぎる価格設定です。ネシカを抜けばビュウリックスとの価格差が10万円ほどしかないのです。

果たして、プラス10万円でビュウリックスを、遮音性に優れる密閉型の筐体に改造できるのでしょうか。

ついでに、仮に屋外に設置するとしたら、雨にも耐えられる防水性能が必要なので、ますます金が掛かってしまいます。

ちょいKARAやDBACが、どのように約90万円という販売価格を実現したか、という点が鍵となる事でしょう。

↓そもそも、こんな風にゲーム機を置いても、法的に問題ないのか不安(「写真素材 足成」より引用)。
 

第2の理由は、予想以上に大きなサイズと手間です。

思えば、ちょいKARAも従来の汎用筐体も、設置に必要な面積が小さい点が売りです。

前者は立ったままの利用が前提ですし、後者は椅子さえあれば十分なので、それほど場所を取らなかったのです。

それに対し、V-BOXは筐体の中で椅子に座れるだけの広さや、ドアを開けられるだけの空間が必要です。

そのため、ちょいKARAや従来の汎用筐体と比べて面積が大きく、単位面積あたりの収益が落ちてしまう可能性も考えられます。

さらに、従来の汎用筐体では、単に椅子に座るだけで良い所を、V-BOXではドアを開け閉めする手間が掛かってしまいます。

時間的には小さいかも知れませんが、それが積み重なれば回転率にも響いてしまいます。開け閉めが面倒な方もいるでしょう。

無論、だからと言って1回200円になど、したくても出来ないのです。

↓1円単位で設定できても、客が1回100円超えを認めなければ無意味(「写真素材 足成」より引用)。
 

以上で、もしV-BOXが全国のゲーセンに出荷されたら、という妄想を終えます。

小回りの利くビデオゲームは閑古鳥、頼みのメダル・クレーン・大型筐体は運用コストが甚大で、ヒットしなければ致命傷です。

となると、安定した経営にはビデオゲームの復権が必要なのですが、ゲーセンの扱いの悪さや喧騒故に、それは絶望的です。

それを打破するのが遮音性に優れるV-BOX、との意気込みでしたが、叶う事はありませんでした。

仮に叶ったとしても、従来の汎用筐体と比べ、販売価格やスペース的に利益率が落ちてしまう可能性は高いです。

よって、たとえ音響空間が良くて顧客満足度が高くなるとしても、V-BOXはゲーセンには有難くない存在なのかも知れません。

となると、もはやゲーセン自体に、アーケードゲームを遊ぶための施設としての限界が来ているのではないでしょうか。

ゲーセンはメーカーから卸されたアーケードゲームを買い、それを置いて客からプレイ料金を頂く商売です。

つまり、アーケードゲームにはメーカー、ゲーセン、そして客が関わるのですが、下記の通り三者とも不満だらけなのが現状です。

(1)メーカー「ゲームが全然売れない、助けて」
(2)ゲーセン「ゲームが高すぎデカすぎ、助けて」
(3)客「金が掛かって五月蠅い、助けて」

ゲーセンがゲームを選り好みし始めたのを機に、メーカーはゲーセン好みのゲームに絞って作らざるを得なくなりました。

結果、ゲーセンには大型筐体ゲームばかり置かれて客層が絞られた事で、メーカーはゲーセン殺しだ、と逆恨みする一方です。

残った客は客で、大型筐体ゲームも半額の1回100円で当然、ゲーセンの都合など知るか、との姿勢が定着して久しいです。

このように、ビジネスとして完全に破綻しており定価で客も満足させられなくなった商売に、何の意味があるのでしょうか。

確かに、ゲーセンには根強いファンがいますし、ゲーセンだからこそ運用が成り立つタイプのゲームもあるでしょう。

しかし、根強いファンを客すべての感想と思い込み、そうでない客の声なき声を黙殺し続けた結果が、今の惨状なのです。

そこで、 メーカー、お店、そして客すべてが納得し、共存共栄できるだけの価格設定にプレイ環境。

それらを実現できる、ゲーセンとは別の方向性でアーケードゲームを遊ぶための新たな「場」の構築を、いま必要としているのです。

最後に、一つだけ付け加えておきます。

V-BOXは叶わぬ夢ですが、遮音性に優れる豪華な環境でビデオゲーム、という経営理念まで僕は完全に諦めた訳ではない、と。

↓ゲーセンとは別に、脱落した客層の受け皿を作りたいのです(「写真素材 足成」より引用)。
 

 

5/7 まとめ ★

僕はタイトーに新卒エントリーし、求められた企画書に次世代汎用筐体「V-BOX」の構想をまとめ、提出した事があります。

V-BOXは「ちょいKARA」が持つ遮音性を応用し、より楽しくビデオゲームを遊べるようにする筐体です。

つまり、喧騒やビデオゲームの冷遇といったゲーセンの問題点を打破し、結果的にゲーセンを救う事に繋がる、と信じていました。

…ところが、二次選考のディスカッションでは、想定外の事態に焦り、全く持って、その想いを活かせず落ちてしまったのです。

それと同時に、色々な意味で、いかにビデオゲームが下に見られているか、改めて痛感しました。

とはいえ、仮にV-BOXを世に出せても、販売価格やスペース的な面で、ゲーセンから拒絶されるだけだったのかも知れません。

本エッセイを読んだ貴方が、これまで以上にゲーセンで奮発したり、逆に現状を変えたりする切っ掛けとして頂ける事を望みます。

↓我々はもう一度考え直すべきです。皆さんにもわかっているはずだ。
 

 

6/7 こちらもあわせてどうぞ

・ちょいKARA

ゲーセン向け小型カラオケボックスです。その遮音性に感銘を受けた僕は、V-BOXの企画を武器にタイトーを志望しました。

・ネシカを斬る!

従量課金制の代わりに、無料でビデオゲームの新作を続々配信するサービス「ネシカクロスライブ」に関する意見を述べます。

・ダライアスバースト アナザークロニクル

2画面、ボディソニック、そしてヘッドホン端子を搭載した専用筐体でプレイする横シューです。これも僕をタイトーに傾かせました。

・VGF掲示板

検索等で来て頂いたついでに、ご意見ご感想などを残して頂けると嬉しいですが、事前に三か条を一読ください。

 

7/7 最後に

ゲー募録でないエッセイとしては、実に1年と8ヶ月ぶりの公開です。

本エッセイは、元々ちょいKARAの方で思い出話として書く予定でしたが、重い内容や作業時間もあって、分ける運びとなりました。

本エッセイ自体も、当初は旧サイト末期の話にも触れた上で僕のゲーセン観を洗いざらい綴る、との触れ込みでした。

ところが、某ゲームの炎上騒動なみに、ゲーセン観を文章化するのが困難である上に、ただの悪口でしかないものでした。

そこで、V-BOXの概念を軸に、ゲーセンやアーケードゲームが抱える慢性的な課題と、その持論を展開する方向へ改めました。

結果、最初に思い描いていたものとは違った形となりましたが、これもまた僕のゲーセン観の一つなので、良しとします。

5/7の最後の一文を引用するのは恐れ多いですが、他に適切な文章を思い付かなかったため、思い切って引用させて頂きました。

旧サイト後期より、これに近い事をブログに書き続けてきました。当時、それでゲーセンを救う使命に燃えているつもりでした。

結局、今日に至るまで黙殺、あるいは反発されてきましたが、果たして今回は、どうなるでしょうか。

一応、推敲に推敲を重ねて、ちょっぴりゲーセン寄りにしましたよ?

 

リンクの追加と前後して、冒頭の配置を変えたり三者の不満うんぬんに少し加筆したりしました。

ただ、今となっては読み辛く分かり辛いと思うので、いずれ何とかしたい所です。

2017/07/15 「ネシカを斬る!」へのリンクを追加

2016/09/30 初公開

 

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