トバルNo.1
本レビューで対象とする精通度:★★★★☆
(本作を除く各ゲームに精通)
所要時間:約4分(最低限) or 約29分(たっぷり) or 約35分(全て)
注釈の注釈
「専門用語(注1A)」(本文)
本文で↑を押すと注釈を読めます。
注釈を読んでから、もう一度
「専門用語(注1A)」:注釈
↑を押すと、本文に戻れます。では下の本文を、どうぞ。
1993年に登場したバーチャは、ストII等とは全く異なる路線、すなわちリアルな映像美や動き、そして戦いを重視しました。
その作風は後の鉄拳やDOAと共に3D格ゲーなる新ジャンル、ひいては本格的に3DCGコンテンツを開拓する事となるのです。
しかし、まだまだ当時はリアルな格闘と、三次元空間の自由な移動を両立した3D格ゲーは出ていませんでした。
加えて格ゲーがアーケード発であった名残で、大半の格ゲーは家庭用のコントローラでは操作し辛い傾向にありました。
これら全てを解消した格ゲーを作りたい開発スタッフと、PS1参入に向けてFF7体験版を配り、他ジャンルも作りたいスクウェア。
両者の利害関係が一致した結果、「ドリフ(注1A)」が開発しスクウェアが1996年に「トバルNo.1(注1B)」を発売するに至ります。
当時こそ体験版のオマケ等と揶揄されるも、遠い未来に向けて格ゲーのみならず3Dゲーム全体の進歩を促す事となるのです。
↓キャラクターデザインは鳥山明だ。
(注1A)ドリフ:名グループの略称でなく1995年設立のゲーム会社「ドリームファクトリー」の略称。
(注1B)トバルNo.1:本レビューで解説。石井精一を筆頭に、当初ドリフにはバーチャと鉄拳を手掛けたスタッフが集った。
目次
最低限の文章で済ませたい方には「★」の項目のみ、たっぷり読みたい方には「☆」の項目も追加で読んで頂ければ幸いです。
それらを読んでもなお飽き足らないのであれば、ぜひ末尾が空欄の項目も読んで下さい。
目次より先に読んで頂いた項目です。
ゲームのルールや操作方法を解説します。
当時は異端だった操作方法が、如何に現代の風潮を先取りしているか考察します。
如何にトバルと鳥山明の作風が水と油の関係であったか考察します。
本編とは別に恒例となる「豪華なオマケ」を解説します。
ある意味、一番の売りであるFF7体験版などが入った付属ディスクを解説します。
これまでの解説から、本作がどんなゲームで、どんな良さがあって、どんな方に向いているかを解説します。
文字通り、本作に関する、個人的な思い出話です。
本ページと何かしらの関連性や共通点を持つコンテンツを3つ紹介します。あと掲示板もどうぞ。
本ページについての、あとがきです。
基本的にはバーチャと同じく時間内に相手を倒す、もしくはリングアウトさせる事がゲームの目的です。
ただし操作方法は当時のバーチャ等とは大きく4つ異なります。
1つ、攻撃ボタンは上・中・下段の3つである事。パンチかキックかはキャラや技ごとに異なります。
2つ、ジャンプするにはマリオよろしく専用のボタンを推す事。ボタン長押しでも、ジャンプの高さは現実の範疇です。
3つ、方向キーを入力した方向へ歩いたり素早くステップしたり出来る事。これにより、奥や手前にジャンプする事も出来ます。
そして、掴み技です。まず相手を掴んでから投げる事は勿論、掴んだまま相手を動かしたり打撃を入れたりも出来ます。
相手を動かした直後の移動投げが大ダメージである一方、掴まれた側も防御や回避、反撃が可能なのです。
↓条件が合えば相手が立とうが、しゃがもうが掴める。
また、説明書には未記載ですが、一部の投げ技を掛けられた時、一定のタイミングで掴みを行う事で投げ抜けが出来ます。
つまり、ノーダメージで済むばかりか、そのまま相手を側面または背後から掴んだ状態となるので一石二鳥です。
多くは投げ技を掛けられた瞬間とシビアですが中には、じっくりモーションを見てから投げ抜け出来る物もあります。
その筆頭がパワーボムです。CPU戦で多用され、かつ比較的タイミングが分かり易いので、確実に抜けられれば大きな助けです。
「プラクティスモード(注2Aa)」内で投げ技を掛け、「NAGE NUKE」が赤く光った瞬間が投げ抜けのタイミングです。
一方、一部を除き前以外の方向へ動かした直後の移動投げを抜ける事は出来ませんが、未然に防ぐ事なら出来ます。
具体的には、掴まれた直後に後ろへステップして振りほどいたり、動かされた直後に逆方向へ踏みとどまったり出来ます。
特に、上手く踏みとどまれば、そのまま後ろへ投げ返せるので、如何に強力な移動投げとて過信すれば泣きを見るのです。
↓タイミングを覚えたら実戦で実践だ。
(注2Aa)プラクティスモード:棒立ちの相手をサンドバッグ代わりとして、色々な技を自由に繰り出せるモード。
前項を読んでピンと来た方もいらっしゃるかも知れませんが、格ゲーの中でも「トバル(注3Aa)」は3種類もの配慮に秀でています。
第1の配慮は、上・中・下段に分かれた攻撃ボタンです。
昔も今も格ゲーの攻撃ボタンと言えばパンチとキック、もしくは強弱に分かれている事が主流です。
また、基本的に全ての技に上・中・下段のいずれかの攻撃判定が与えられており、効果的な使い分けが勝敗を左右します。
一方、方向キーの組み合わせで技や判定が変わる上に、同じコマンドでもキャラごとに例外もある等、ハードルは高めです。
そこで、トバルではボタンと判定を一致させる事で、キャラを問わず使い分けに要求される知識や技術を格段に減らしたのです。
上段は△、中段は□、そして下段は×と、ちょうどPS1コントローラと連動している点も、分かり易さを引き立てます。
↓なおジャンプ攻撃や掴みは例外。
第2の配慮は、簡略化されたコマンドです。
昔も今も攻撃から防御、そしてフットワークまで、格ゲーには斜め入力や同時押し等の難しいコマンドが欠かせません。
しかし、本体付属のコントローラでは親指に多少の負担が掛かる他、時に直感的でない同時押しもあり混乱を招きがちです。
そこで「トバル(注3Ab)」では、こうした操作でのみ出せる技を全て無くす事で、必要な技術や親指への負担を大きく減らしました。
それでは技の絶対数が減り戦いが単調になるのでは、との心配も無用です。
何故なら方向キーのみならず、人差し指で押せるガードやジャンプも組み合わせる事で多彩な技を使い分けられる為です。
何より3D格ゲーでは珍しく、しゃがんだ相手も掴めるので、しゃがみ中も掴みに要注意で、熱い読み合いが楽しめます。
このように本体付属のコントローラに特化した快適な操作性は、近年の格ゲーと比べても未だトップクラスなのです。
↓ガードしながら攻撃ボタンで強攻撃や掴み。
最後に、リアルかつ合理化されたジャンプです。
3D格ゲーは比較的リアルな格闘が売りにも関わらず、当時は大ジャンプで、恐らく2〜3mもの超人的な跳躍を見せてくれました。
ただ実用性は皆無である上に、強力な小ジャンプ攻撃をするには、一瞬だけ方向キーを押す高度な技術を求められました。
そこで、「トバル(注3Ac)」では大ジャンプでも現実的な高さに留める事で、上記の技術なしで小ジャンプ攻撃を可能としたのです。
また、ジャンプもボタンで行う他、大小はボタンを押し続ける長さで決まります。
つまり、個人差はあれど方向キーよりボタンの方が短く押し易く、それだけジャンプの使い分けが容易となった事を意味します。
このようにトバルを機に3D格ゲーのジャンプ力自慢は鳴りを潜め、より快適な操作性と熱い駆け引きを両立する事となるのです。
一方2D格ゲーでは、より高く鋭いジャンプを追求する等、ジャンプ一つ取っても2Dと3Dで対極的な道を歩み始めていきました。
↓浴びせ蹴りは隙こそ大きいが唯一、倒れた相手にもヒット。
以上より、「トバル(注3Ad)」は攻撃のボタンと判定を一致させ、難しい操作を無くし、ジャンプをリアルにしました。
これらは全て、PS1コントローラで快適に操作できる様に、との配慮から実装されたと考えられます。
ただ、残念ながら当時は全く持って理解されませんでした。特に攻撃ボタンが上・中・下段の格ゲーは極めて稀です。
むしろ操作性の向上と引き換えに、より高度な知識や技術を要する、それこそゲーセン以外を考えない様な先鋭化が続きました。
皮肉にも、それに呼応するかの如く格ゲー全体が暗黒期を迎え、代わって3Dアクションが台頭してから再評価されたのでした。
そしてゲーセンが衰退して久しい2019年現在、もはや格ゲーの主戦場はコンシューマーゲームです。
それに合わせてコントローラでの操作も視野に入れた配慮が進み、新世代のトッププレイヤーと共に復興を遂げるのです。
しかし忘れては、なりません。孤軍奮闘ながら20年も早く、そんな時代に先駆けたオーパーツ、それがトバルである事を。
↓直感的な軸移動はトバル抜きには語れない。
(注3Aa)トバル:「トバルNo.1」の略称。本レビューで解説。
(注3Ab)トバル:上記3Aaを参照。ましてや波動拳コマンドの類などは一切ナシ。
(注3Ac)トバル:上記3Aa,3Abを参照。これに合わせてアッパー等での浮きも小さくなり、ほぼ空中コンボは不可能。
(注3Ad)トバル:上記3Aa〜3Acを参照。同時期のマリオ64と共に、3Dアクションの進化に大きく貢献した点は間違いない。
上記の様な時代に先駆けた配慮によって際立つ「トバル(注4Aa)」の作風はリアルさ、及び、土俵際の駆け引きです。
奥や手前への移動はジャブなど直線的な攻撃に強い反面、回し蹴りなど曲線的な攻撃には弱いです。
その回し蹴りも相手にガードされれば止められてしまい、大きな隙を晒す事となる点が実にリアルで、戦術にも大きく関わります。
土俵際の駆け引きを象徴する点として投げ技が強く、特に掴んで移動した直後の投げは最も高威力でリングアウトさせ易いです。
よって、如何に移動投げを狙うかが勝敗を左右する一方、リング端で露骨にリングアウトを狙っては返り討ちにされがちです。
そこで、あえて逆方向への投げや打撃などで裏をかいたり、逆に裏を警戒する相手を素直に投げたりと心理戦が実に熱いです。
しまいには端すぎて、相手を落とそうとして自分が落ちたりもして、地味ながらも熱く、笑いも誘える戦いはトバルならでは、です。
↓特に後ろへの移動投げは非常に強力。
しかし残念ながら、この作風は未だ広く理解されるには至りません。皮肉にも、その一因に鳥山明のキャラデザが挙げられます。
決してキャラデザを否定する意図は、ございません。むしろ、氏のピークであった事もありキャラデザは未だ色褪せません。
具体的には正統派イケメンから大柄な女子プロレスラー、果てはロボットや宇宙人など実に個性豊かで飽きさせません。
うち基本的にロボットは「ホム(注4Ba)」だけですが、アラレちゃん口調と軽妙な動きがユニークです。自ら背後のボタンを押すと…。
また一口に宇宙人と言っても、自慢の尻尾が強力な武器でありつつも弱点である「イール・ゴガ(注4Ca)」。
中ボスの2番手であり、身の丈3mを超える巨体を活かし、リーチあるパンチや押し出しで執拗に場外を狙う「ノーク(注4Da)」。
そしてラスボスでありながら特に小柄で、後の破壊神ビルスを彷彿とさせる「ウダン皇帝(注4Ea)」などバリエーションは豊富です。
いちばん強いヤツがチビという点は格ゲーでも珍しくありませんが、最大1m単位という驚愕の体格差は鳥山ならでは、でしょう。
↓ホムの下段蹴り「ハイホーハイホー」が炸裂。
このようにキャラ自体は魅力的ですが、それ故に1つの疑問が浮かびます。
鳥山明が担当したキャラ、それもロボットや尻尾の生えた宇宙人などを使って、なぜリアルな格闘など、やらねばならないのか?
ましてや昔も今も「鳥山明=ドラゴンボール」と言っても過言でなく、その作風は「トバル(注4Ab)」とは対極的と言わざるを得ません。
皮肉にも、あまりに大きすぎるギャップはトバルの作風、氏のキャラ双方の良さを互いに打ち消してしまったのです。
また個性的な外見と裏腹に、大半のキャラが没個性的な巴投げやDDT、パワーボムを使いこなす等、チグハグさは否めません。
キャラと言えばバーチャ1を思わせるカクカクポリゴンもまた、せっかくの氏の持ち味と合わない表現で、評価を落とす一因でした。
よって正確にはキャラデザ自体でなく、根本的にトバルと氏の作風が水と油の関係で、無理に混ぜた点こそ不評の原因なのです。
この反省からトバル2では心機一転、鳥山らしさ溢れる派手な作風や表現を突き詰め、隠れた名作として後世の礎となるのです。
↓プロレスと柔道は惑星を越える共通言語なのだろう。
ではトバル2は疎か、未だに3D格ゲーが作られ人気を博す現在、初代の「トバル(注4Ac)」に存在意義は無いのでしょうか?
結論から言うと、答えはNOです。確かに初代トバルは当時としても地味であり、昨今と比べて粗削りである点は否定できません。
特に投げ技が非常に強く、逃げ回られると対処が困難である点は、トバル2で改善されるほど格ゲーとして問題アリです。
しかし、それを考えてもトバル2や昨今の格ゲーは派手になり過ぎていて、ついていけない、と感じる方も居るかも知れません。
キャラや技が多すぎて覚え切れない、空中コンボが難し過ぎて出来ない、だから他人に勝てなくて面白く無いのだ、と。
そう考えると結果的に初代トバルにも、昨今の格ゲーのアンチテーゼとしての存在意義が有るのです。
覚えるべき主な技は少なく、そもそも空中コンボが不可能なので公平です。また、ほぼ他人と対戦できる機会は有りません。
出来る事が少ないが故のシビアさ、1発1発を慎重に繰り出すストイックさを求める方には、むしろ初代トバルがオススメなのです。
↓高所からのリングアウト演出が最高にイカす。
(注4Aa)トバル:「トバルNo.1」の略称。本レビューで解説。
(注4Ab)トバル:上記4Aaを参照。当のドラゴンボールもサイヤ人の前後で作風が異なるが、いずれにしろトバルと対極的。
(注4Ac)トバル:上記4Aa,4Abを参照。当時は酷評されたカクカクポリゴンも、いま見ると一周まわって新鮮で高クオリティ。
(注4Ba)ホム:第66回大会優勝者に弟子入りした作業用ロボット。続編にて出生の秘密が明らかに。
(注4Ca)イール・ゴガ:「ワコイバヤイ星」出身のパワーファイター。あこがれの彼女にプロポーズすべく大会に参加するが…。
(注4Da)ノーク:「イルドアーボ星」出身の超巨漢戦士。アタマこそ少し弱いがケタ外れの怪力を買われ、ウダン皇帝からスカウト。
(注4Ea)ウダン皇帝:大会主催者にして最後に立ちはだかる最強の王。歴代97回までの大会で彼に勝てたのは、わずか2名。
これまで述べた通り、「トバル(注5Aa)」は今日の格ゲーを語る上で欠かせないゲームです。
あまり触れませんでしたが、方向キーで三次元空間を自由に移動できる点は、当時としては極めて革新的でした。
後の3D格ゲーは挙ってトバルに近い自由な移動やリアルなジャンプを採用し、より奥深い駆け引きを実現する事となるのです。
しかし実際の所、奥や手前に動かずとも戦える点も事実であり、有用性に気付かぬまま終えた方も、いらっしゃる事でしょう。
それを抜きにしても当時の時点で本編だけでなく付加価値のオマケを求められ、鉄拳はプリレンダムービー等で応えました。
また格ゲー以外にもバイオハザードやマリオ64等、人間キャラで三次元空間を探索し、長く遊べるゲームが人気を博しました。
これら名作に対抗すべく、また自由な移動をPRすべくトバルに搭載された豪華なオマケ、それが「クエストモード(注5Ba)」です。
↓むしろ、これこそが本命かも。
「クエストモード(注5Bb)」は迷路の様なダンジョンを走り回り、本編と同じ様に敵と戦い、最下層のゴールを目指していくゲームです。
視点こそ異なれど基本的な操作は同じですが、それだけでは多くの障害に見舞われます。
敵と戦う度に体力が減る一方では、やがて力尽きます。また強敵と戦うには、プレイヤー側の弱さは否めません。
それ以前に、そもそも穴を跳び越える事が出来なければ、いつまで経っても穴に落ち続けて喰らい、ゲームオーバーです。
そこで、道中に落ちているアイテムを拾い、使う事で体力を回復したり強化したりして、強敵とも渡り合える様になるのです。
また、宙に浮く水晶を集めればピンクのエリアでアイテムを買えます。逆に、青のエリアにアイテムを置いて売る事も出来ます。
うち「ポーション(注5Ca)」はプレイする度に色と効果が変化し、運が悪ければダメージや弱体化を受ける博打のアイテムです。
そして、走りながらタイミングよく大ジャンプすれば2〜3mの跳躍で穴を跳び越えられます。これらを駆使して活路を見出すのです。
↓最初に入れるダンジョンで、一通り教えてもらえる。
そんな「クエストモード(注5Bc)」の魅力は3点あります。第1の魅力は、格ゲーと3Dアクションのハイブリッドです。
前述した通り、「トバル(注5Ab)」より前にも初代バイオやマリオ64など、国民的3Dアクションが人気を博していました。
しかし良くも悪くも、それらの操作方法はシンプルであり、特に戦闘において行動パターンは制限されがちでした。
そこで、トバルでは格ゲーをベースとする事で、3Dアクションとして戦闘で取れる行動パターンを格段に増やしたのです。
少なくとも 3つの攻撃ボタンで、多彩な技を使い分けられる3Dアクションは、当時としては画期的でした。
戦闘でない時でも、アイテムを拾って使うだけでなく置いたり、前方に投げ付け敵に飲ませたりも出来るのです。
一方、移動とカメラ操作を同時に行えず、方向転換の度に止まる必要がある等、操作性に関しては改善の余地を残しました。
今後、3Dアクションは操作性の改善と共に、格ゲー以上に多彩な行動でバリエーション豊かな戦闘を追求する事となるのです。
↓フルポリゴンでシームレスバトルなのも珍しかった。
第2の魅力は、3Dアクションとして多彩なダンジョンです。
まずエントランスに放り出され、そこから全部で5つあるダンジョンの入り口まで移動すればゲーム開始です。
それとは無関係に、途切れ途切れの足場を跳び越えていくエリアが存在し、気兼ねなく走って大ジャンプ等の練習が出来ます。
ダンジョン自体の構成も秀逸です。最初に入れるダンジョンにて、操作方法やショップの使い方などを、ざっくりながら学べます。
最新のダンジョンをクリアして順番に解禁されるエピソード1〜3のダンジョンにも、それぞれ特色があり飽きさせません。
具体的には、大岩や矢、丸太、電磁レーザーなどの障害物を避けるアスレチック要素、隠された鍵を見つけて扉を開く探索要素。
そしてアイテムだらけの天国要素など多彩なシチュエーションが、わずか1つ辺り15分ほどで楽しめるのです。
一方、最後の「ウダンズダンジョン(注5Da)」では、ほぼ、これらが廃され新アイテムが登場する等、王者の風格を感じさせます。
↓クリアでボスキャラが解禁されるが、うち1名のみ小型版。
最後に、RPG的な運も踏まえた戦略性の高さです。
「クエストモード(注5Bd)」、特に「ウダンズダンジョン(注5Db)」のクリアには、最悪の事態を想定した戦略の考案が欠かせません。
全体に共通して、初めて拾う色の「ポーション(注5Cb)」を先に敵に飲ませるか、それとも自ら飲むかの選択を迫られます。
前者の場合、ダメージや体力の最大値ダウンであったら一石二鳥ですが、回復や最大値アップであったら相対的に損です。
こちらの方がローリスクですが、もし「ハイパー(注5Ea)」の効果であった場合、一転して甚大なダメージを覚悟せねばなりません。
後者はハイリスクですが瀕死なら相対的に受けるダメージが減り、運よく回復やハイパーを引き当てれば極めて有利となります。
他にも、「大きな肉(注5Fa)」や「天秤(注5Ga)」の扱い、「ハート(注5Ha)」を取るタイミング等、その場の選択が後々に響きます。
果ては最大値ダウンで強引に体力満タンとするのも手と、時に柔軟かつ大胆な発想がモノをいう、実に奥深い作風なのです。
↓ハイパーを飲ませても上手く隙を突ければ問題なし。
以上より、今日の3Dアクションを語る上でも「トバル(注5Ac)」の「クエストモード(注5Be)」は欠かせない存在です。
戦闘で取れる行動パターンの多さ、ダンジョンの多彩さ、そして運も踏まえた戦略性の高さは現代に通じる物があります。
本編と対照的にクエストモードは好評でありトバル2では、よりRPGらしさを高める路線へと発展し、更なる好評を得ました。
後年、格ゲーはクエストモード的なオマケを盛り込み、クエストモードのみを洗練させた様なゲームが1ジャンルとして定着します。
かくして業界がクエストモードを目指した結果、21世紀にオープンワールドへと発展し世界的なヒット作を生み出す事となるのです。
なお今となっては初代トバルのクエストモードは、操作性が悪く格ゲーの腕が必要で運任せが過ぎる等、遊び辛さは否めません。
それでも長くて1時間でクリアできる気軽さ、途中セーブ不可のシビアさは、往年のアーケードゲームを思わせます。
今時の重厚長大なゲームも良いが、古き良き時代の気軽でシビアなゲームが恋しい方を、十分に満足させてくれる事でしょう。
↓闇の奥に、何が待つ。
(注5Aa)トバル:「トバルNo.1」の略称。本レビューで解説。
(注5Ab)トバル:上記5Aaを参照。アイテムを持ったまま強攻撃や掴みを行うと、投げ付けや設置、使用に化けてしまう。
(注5Ac)トバル:上記5Aa,5Abを参照。モーションや行動パターンにも特色あるモンスターにも注目だ。
(注5Ba)クエストモード:本編とは大きく異なり、アイテムを駆使して回復や強化を行い、ダンジョンを踏破していくゲーム。
(注5Bb)クエストモード:上記5Baを参照。ホイポイカプセルの様なアイテムを投げ付ければ、ピンクのエリアが登場。
(注5Bc)クエストモード:上記5Ba,5Bbを参照。カエルは掴んで投げ抜け不可のDDTを仕掛けるので、すぐ振りほどこう。
(注5Bd)クエストモード:上記5Ba〜5Bcを参照。ポットには5つまでアイテムを入れておける。投げ付けて解放しポットは消滅。
(注5Be)クエストモード:上記5Ba〜5Bdを参照。透明モンスターにはドクロ投げ付けの他、宙返り系の技が有効。
(注5Ca)ポーション:体力を64回復、全快、体力の最大値を±50、割合ダメージ、残り体力1(POISON)が主な効果。
(注5Cb)ポーション:上記5Caを参照。プレイ中に1度でも飲んだ事のある色を拾った時、効果が表示される親切設計。
(注5Da)ウダンズダンジョン:全30フロアが存在するダンジョン。一部を除きマップは自動生成で、降りたら二度と戻れない。
(注5Db)ウダンズダンジョン:上記5Daを参照。中盤からは灯りを持って、余計な戦闘を避けられるルートを辿るべし。
(注5Ea)ハイパー:サクランボで20秒、ポーションで60秒間、ボタン連打で絶え間なく攻撃可能。技やキャラ次第で永久コンボに。
(注5Fa)大きな肉:体力満タンの時は打たれ強さを2アップ。そうでない時は体力を64回復。打たれ強さが命運を左右する。
(注5Ga)天秤:これを持ってから任意のアイテムを拾い、使うと効果2倍。出来れば全て打たれ強さアップの為に使うべし。
(注5Ha)ハート:体力満タンの時にハートのエリアを踏むと、残り体力が1となり残機が増え、その数だけ力尽きても復活できる。
こんな「トバル(注6Aa)」ですが当時、真っ当に評価されませんでした。その最大の理由はFF7体験版などが入った本ディスクです。
1995年当時のスクウェアは任天堂ハード一筋であり、特にスーファミでFFを筆頭に数多くの名作を排出する人気メーカーでした。
一方それらも海外では、さほど売れず、海外でも売れる様な3Dポリゴンの大作RPGの実現にはCD-ROMが必要でした。
その是非を巡り任天堂と対立しN64参入はボツ、低い3D性能や難しい開発、不振を極める海外シェアでセガサターン参入もボツ。
海外シェアの不振はPS1も同じでしたが、ソニー自身も改革に向けて動き始めている最中でした。
かくしてCD-ROM、3D性能、開発難易度、そして特に海外シェアの伸びしろのバランスを踏まえ、PS1参入を決めたのです。
ただ、いきなりFF7を出すにはリスクが大きかったか、まずトバルに体験版を同梱してPRとテストを行う事としたのです。
↓当時のスクウェアらしさ溢れる隠れた名曲。
製品版が出てから役目を終えたFF7体験版を、今あえてプレイすると様々な発見があり、また新鮮な感覚で振り返れる事でしょう。
なぜか製品版でカットされた冒頭のストーリー解説、微妙に異なるセリフや音楽のアレンジは序の口です。
戦闘においても、各キャラのモーションや演出、効果音に多少の違いがあり、製品版に馴染んだ方ほど驚きがあります。
勝利ポーズもまた、剣を回す方向が逆で片足を下げないクラウド、一息ついて再び服をはたくエアリス等、見所があります。
一方、製品化に向けて多くの課題を残していた点もまた事実でした。まず戦闘時、ボタン押し続けで行動を選べず不便です。
梯子に掴まる際、〇ボタンを押す必要が無く飛び移る動作を挟まないので、慣れないうちは移動が覚束ずストレス要因でした。
そして全体的に敵が強く多く、味方を蘇生させる手段が全く無いので厄介です。何より仲間の救出イベントの難解さは有名です。
逆に言えば、初代ドラクエの様に発売直前まで改善や調整を続けた結果、業界を変える一大ヒットを記録する事となるのです。
↓没になった台詞に、想像を膨らませずに居られない。
他にも後に発売を控える3タイトルのPVもあり、良くも悪くも当時のスクウェアの勢いを思い出させてくれます。
RPG以外のジャンルに弱かったスクウェアは、この頃よりRPGと並行して弱点の解消も試みていました。
その為に新興企業への出資は、まだしも他社からの引き抜きや二番煎じ的なゲームの連発も目立ち、批判の一因となりました。
多くは売上も不振で長続きしませんでしたが名作や意欲作も生み出し、後のアーケードゲーム事業などに活きた事でしょう。
閑話休題。 このディスクの好評を受け、PS1の目玉ゲームや雑誌に新作の体験版ディスクを同梱する事が一種のブームでした。
確かに時に、それが肝心の目玉ゲームを霞ませたり、体験版が不出来で製品版の売上を落としたりする副作用も、ありました。
それでも当時は新品のゲーム1本に3000〜6000円も払うしか無かった中、実質タダで新作を触れられる体験版は貴重でした。
かくしてメタルギアソリッド等、予想以上の大ヒットに繋がった例もあり、今なお体験版は重要な役目を果たしているのです。
↓奇しくもブシドーブレードもまた、トバルと同じく未来に生きていた。
(注6Aa)トバル:「トバルNo.1」の略称。当時のゲームファンの多くは「トバルってFF7体験版のオマケだろ?」と口を揃えていた。
「トバル(注7A)」は平面的な格ゲー、どこか戦闘が物足りない3Dアクションの両方に、転換の道しるべを示したゲームです。
リアルさ、及び、土俵際の駆け引きをテーマに、三次元空間の自由な移動や現実的なジャンプを、いち早く取り入れました。
PS1コントローラで、これらの動作を快適に行える配慮に満ちた設計思想は、1996年当時としては極めて画期的だったのです。
しかし、これらストイックなテーマと派手な鳥山明との噛み合わせが悪く、FF7体験版の存在もあり評価に長い年月を要しました。
この反省が後に活かされる一方、初代トバル自体にもシンプルでシビアな駆け引き、カクカクポリゴンなど確かな魅力が有ります。
オマケの「クエストモード(注7B)」や体験版ディスクの同梱など、ライト層への配慮が後世に大きな影響を与える事となるのです。
以上より、トバルはコンボ技よりストイックな駆け引きが欲しい、カクカクポリゴンや鳥山明が好き、という方にオススメです。
↓かえって格ゲーでは珍しい、真っ当な格闘大会である様も好感。
注釈一覧(専門用語を押して本文に移動)
(注7A)トバル:「トバルNo.1」の略称。本レビューで解説。
(注7B)クエストモード:本編とは大きく異なり、アイテムを駆使して回復や強化を行い、ダンジョンを踏破していくゲーム。
幼少期より、よくCMが流れていて兄が買ってきたものの、当時は鉄拳2にゾッコンだった事もあり、面白さを感じられませんでした。
このように、ゲーム自体はロクにプレイしませんでしたが、そこそこ印象に残った点も事実でした。
エポンという女キャラの音楽がCMと同じで一同興奮したり、当時あった中日ドラゴンズのメガホンがノークみたいと思ったり。
またピアノの椅子をリングに見立てて、人形でトバルごっこをしていた記憶があります。
何より、初めて見るディスク二枚組のパッケージの貫録に脱帽した物でした。最も、FF7が出てから更に脱帽するのですが。
ただ、1年後には売りに出され、しばらく忘却の彼方でしたが、2001年になって突然、興味を持つ事となります。
トワイライトジェミニを録画したVHSにトバルのCMも入っており、当時のVジャンプの切り抜き記事も見つかり憧憬する一方でした。
↓CMではAPとDPが白色のバージョンだった。
確かVジャンプの記事には開発中の画像が載っていましたが、それを考えても突っ込みどころ満載でした。
グリン・カッツのステージで「TOBAL NO.1」と書かれただけのリング、何故かジャンピングパワーボムをかますチュージ・ウー。
そして画像では無いですがエポンの名前がユポンと間違って紹介されていた点も、5年ぶりに笑いを誘った物です。
そんなこんなで昔話が盛り上がった事もあり、遂に一人で買い戻しに行く決心を固めたのです。280円と、当時としても激安でした。
とっくにPS2が出ていた事もあり、普通ならPS1時代の映像は劣って見えるかと思いきや意外にも、そうでも無かったのです。
当時はシャープなカクカクポリゴンだからだと思っていましたが、いま思えば480iで倍の解像度であった点も大きいでしょう。
さっそくCPU戦をプレイし、苦戦しつつもCPU戦をクリアし、それからクエストモードにドハマりしました。
余談ですが当時の僕は今とは全く異なり、広大な3D空間を自由に走り回れるゲームが大好きだったので、相性は抜群でした。
↓奥の入口へ行ければクエスト直行じゃね?と思って何度も飛び移ろうとした。
程なくしてトバル2をサンタさんに貰い、そちらに更にハマったとは言え、ウダンズダンジョン制覇を諦める事なく続けていました。
今から振り返っても、ほぼ自力で、よくクリアまで漕ぎ着けられたなぁ、と我ながら感心します。むろん今でもクリアできます。
試行錯誤を重ねて、ポーションを敵に飲ませる様にしてからバクチ性が減り、安定して進められる様になったと思います。
より安定して進めるべく、打たれ強さアップを重視していただけに、あるRTA動画の方針には度肝を抜かれました。
何と、ほぼイール・ゴガの、しっぽアタックのみで敵を倒し、威力やハイパーの増強に特化して大胆に突き進んでいったのです。
それで何と26分を切る記録に圧巻でしたが、終盤にて敵の攻撃や落下で死に掛けたのを、ハラハラしながら見届けました。
やっぱり僕には真似できないし、安定して進める方が性に合っていると痛感しましたが、こう自分に無い発想は楽しいです。
ちなみに僕の記録は、グリン・カッツを使って40分くらいです。愛用のチュージ・ウーやホムでは、とうてい出せない記録でした。
↓尻尾は、ぎゅっとする為に有る。
クエストモードだけでなく、よく兄との対戦も行っていました。たまーにホムで自爆してウケ狙いに走ったりもしました。
ただ1回だけ僕が、ひたすら逃げ回って時間切れで勝った時は、さすがに申し訳ない気持ちになりましたね。
現在進行形で僕は格ゲーの逃げ回るプレイに否定的な立場ですが、いま思えば、この経験が有った為かも知れません。
あと、初期設定の30秒では、よく時間切れとなってしまう為、40秒にしてプレイしていました。実際これが丁度よいと思います。
ところで兄はグリン・カッツを愛用しつつも、「強いから使ってるだけ」「キザったらしい奴」と散々な言いようで軽く引きました。
完璧超人で威張らない、みたいな設定なんですがね。似た外見のバリーカーンが嫌な奴なのも、きっと偶然では無いでしょう。
また話は変わってムーフーの、海に跳び込む様にヘッドスライディングする技で奈落に跳び込んで、一人でウケていました。
これを家に呼んだ友達にも披露した所、完全スルーされて帰られてしまいました。もちろん、その前は対戦で盛り上がりましたよ?
↓確かに反応に困るかも。
・トバル2
トバルの続編です。カクカクポリゴンから脱却し、派手な打ち合いやコンボ技を重視した、鳥山らしさ溢れる作風に一変しました。
トバルに先駆けて奥深い戦闘とRPGらしさを追求したベルトフロア2作品の復刻です。奇しくも作風の対比もトバルそっくりです。
・鬼武者
金城武が出る「戦国バイオ」です。初期のバイハザと奥深い肉弾戦のハイブリッドは、さながらトバルの一つの進化系と言えます。
検索等で来て頂いたついでに、ご意見ご感想などを残して頂けると嬉しいですが、事前に三か条を一読ください。
「ロケテストもどき」とは本サイトにおいて、ゲリラ的に期間限定で制作途中のコンテンツを公開する事です。
サイト再開後としては初のゲームレビューです。2018年10月に公開する予定でしたが諸事情で1年近くも延期させて頂きました。
マイペースに作る、と宣言していたとは言え、最初のロケテストもどきから3ヵ月も掛かってしまった点は反省しております。
その割に想定した画像を撮るのが正式公開後まで、ずれ込み、大慌てで仮の画像と差し替える羽目となったのも反省点です。
ただ文章自体は、それなりに本サイトらしい濃厚な仕上がりとなった、と自負しています。思い出話も時間の限り書きました。
大昔に僕が作ったレビューで果たせなかったクエストモードの詳しい解説も13年ごしに果たせて感無量です。
なお、画像に関しては可能な限り、インターレースの残像が目立たない様なシーンのチョイスに苦心しました。
2019/09/21 正式公開
2019/08/18,24〜25,31 ロケテストもどき実施
2019/06/02〜03,09,30 ロケテストもどき実施